エンジニアとしてお仕事をしながら、写真作家としてもご活躍中の塚原英幸さんにお話を伺いました。
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スキューバダイビングをやっていたら、周りに写真を撮る人が増えてきた
――写真に興味を持ったきっかけについて伺いたいのですが。
「もともとスキューバダイビングをやっていたんです。ダイビングの雑誌を見ると、プロの方が撮った水中の綺麗な写真が載っていて、自分は最初写真は撮らなかったのですが、ビデオを撮って楽しむようになりました。3,4年やっているうちに、段々と周りにダイビングをやりながら写真を撮る人が増えてきて、自分もやってみようかな、と思ったのが2000年です」
――社会人になられてからですか?
「そうです」
――学生の頃から興味があったというのではなくて?
「学生の頃は特に写真に興味はなかったです。ダイビングを始めたのも30歳を過ぎた頃からですし」
――将来の夢はカメラマン、と思っていたわけでもなかったですか?
「仕事はエンジニアなんですが、芸術的なことには興味がなかったです。絵を観たりするのは好きでしたが」
――理数系の方だったんですね。
「そうですね」
ここ5,6年はもっぱらモノクロ写真です。
「そんな感じで写真を撮ってみたいなと思い始めまして、そしたら知人がカメラを貸してくれたんです。撮り始めたら、おもしろくて。もともと水中でビデオを撮っていたので、水中の写真が撮りたかったのですが、まずは陸上のものを撮る練習を1,2カ月やりました。その後、自分でカメラを買いました」
――高価なカメラを買われたのでしょうか?
「いえいえ(笑)。
でもレンズがいいカメラを買いました。
水中の小さな魚を撮りたかったので、マクロレンズという、寄って撮れるレンズのものを買って、陸上で花などに寄って撮る練習をしました。
そういうところから写真に入っていって、始めて半年くらいはずっとカラーで撮っていたんですが、たまたまダイビングのオフ会で一緒になった人がスペインに行ってモノクロの写真を撮ってきたんです。それを見た時に、いいなと思って、その頃からモノクロとカラーの写真を半々くらいで撮るようになりました。ここ5,6年はもっぱらモノクロになっているんですが」
――そういえば写真展に伺った時もモノクロの写真でしたね。
「人前に出している写真はモノクロですね」
色を無くすことは、抽象化すること
「最初に買ったカメラは水中で使うことはなくて、結局、水中で写真を撮るようになったのは、カメラを始めてから4年くらい経ってからでした。
水中専用のカメラ、ニコンから昔出ていたニコノス(NIKONOS)というカメラなんですが、それを買いました。小さいのに寄って撮る練習をしていたのに、ニコノスについていたのは大きい物や広い範囲を撮る20㎜という広角レンズでした。
ビデオを撮っていた時は、ズームも出来るので、広い範囲も小さいものも撮れたのですが、カメラに広角レンズをつけていると、小さいものは見に行かなくなってしまい、海に行っても、マンタだとか、ジンベイザメだとか、クジラだとかを見に行くことが多くなりました。海に行く目的も最初と大分変わりました」
――海の中ではモノクロ写真を撮られるんですか?
「海の中ではモノクロ以外撮ったことがないです」
――モノクロの写真のどういうところが魅力なのでしょうか?
「色を無くすということは、抽象化することなんです。海の中は青いというイメージがありますが、いつもそんなに綺麗な青ではなくて、濁っていたり、グリーンがかっていたりすることもあります。モノクロにすると、実際の色とは関係なく、見る人が自分の記憶にある一番綺麗な青を思い浮かべることができるんです。情報を無くすことで見る人の想像力を働かせることができます」
――なるほど。
「あとは光が差し込んでいる、その光の感じをモノクロの写真は綺麗に出すことができます。太陽の光だけを強調して、他は黒くしてしまうとか、そういう表現が出来るんです。
逆に陸上の写真は、例えばアフリカのマサイ族が巻いている赤いチェックの布だとか、赤土だとかは、モノクロで撮っても面白くないかなあと思うんです。何でもかんでもモノクロの方がいいというのではないと思います」
――モノクロの大きな写真を観てみたいですね。
「今までつくった中では、水中の写真ではないんですが、動物の写真で長径が170㎝くらいのがありました。
パネル貼りにして、一昨年のGWにトライブス(現在、アフリカンカフェバー。展示をした移転前はアフリカ料理店)で展示させて頂きました」
――観てみたかったです。
「飾るのはいいんですが、後が大変なんです。展示が終わった後、どこに保管するのかという」
トライブスでの展示風景
動物を見に行ったのが、すごくおもしろかったんです。ゾウやキリンが何十頭も歩いるのを見られて。
――今はお休みを利用して撮影に行かれているんですよね。海外が多いですか?
「気に入ったところに何度も行くタイプなんです。日本だと沖縄とか奄美大島とか、海外だとモルディブ、アフリカ、トンガですね。
アフリカは最初、ツアーに誘われて行ったんです。前半は海でダイビング、後半はケニアで動物を見るというツアーだったんですが、前半の海が、期待が高すぎたというのもあるんですが、あまりおもしろくなかったんです。三日間くらいかけて(タンザニア共和国に属する)ペンパ島の周りを巡るという……、木造のヨットに乗ったのはすごくよかったんですが、僕が行った時にはたまたま、見られると言われていたマンタもジンベイザメもいなくて。でも後半の動物を見に行ったのがすごくおもしろかったんです。ゾウやキリンが何十頭も歩いているのを見られて」
――動物を見に行くのはジープですか?
「ジープというほどいい車ではなくて、ワゴン車を改造した車ですね。天井開けて、外を見られるという」
――近くで見られるんですか? 危険ではないですか?
「ライオンでも車に乗っていれば大丈夫です。車ごと、大きな生き物として見られるので。降りて近づいていったら危ないですが。
アフリカには二回くらい行ったら大体様子がわかったので、三回目からはツアーではなく、一人で行くようになりました。現地で、大体いつも同じドライバーの人にお願いするように手配してもらいます」
――海よりも陸上になりましたか?
「いえ、半々な感じで偏らないようにはしています」
――アフリカは、人間もいいですか? モデルにしたりとか。
「撮ると、お金を払わなければいけない感じになるので(笑) そういう雰囲気にならない農村などでは撮ったりもします」
ネコ科の動物が好き
――今後も旅に出て、撮影していく感じでしょうか。
「そうですね、クジラは水中でしか撮ったことがないんです。水上で跳んでいるところも撮りたいですね。もっといろいろな動物も撮りたいです。僕はネコ科の動物が好きなんです。ライオンとかチーターとか。トラも絶滅の危機にあると言われていますが」
――トラって、そうなんですか?
「そうですよ。生息区域が狭くなってきて……、人間との軋轢でしょうか」
――では、今後のテーマとしては……
「やっぱりネコ(笑)」
――テーマとして、おもしろいかもしれませんね(笑)
「初めて個展をやった時の展示はライオンとヒョウとチーターというネコ科の動物の写真だったので、お付き合い長い人は僕のネコ好きを知ってるんです。そのくせ、猫アレルギーなんですが」
――そうなんですか(笑) ネコだけの写真展も、人が集まりそうですね。ネコ好き多いですものね。
「写真を見に来るというより、ネコに会いにくるんですよね。ネコをテーマにグループ展をやっても、僕はモノクロ写真を出すので、見にくる方はカラーの写真に食いついていますね」
――ネコ科の動物と海、二つの軸でやっていく感じでしょうか。
「人も撮りたいですね」
――旅先で出会う人ですか? 何かをやっている人ですか?
「旅で出会う人もいいですね。何かをやっているというより、その人を撮る、というか。そういうのを撮れるといいですね。最近、ミュージシャンの方と知り合うことが多いので、そういう方たちとか」
――生きているものを撮ることに興味があるんですね?
「生き物がメインですね」
――海は深いところまで潜って撮影をしていますか?
「タンクを背負って20mくらい潜りながら撮ると、息の泡が映ってしまうことがあって。でもそれがおもしろかったりするんです。マンタなどは、ジャグジーじゃないけど、泡が気持ちいいみたいです」
――人間に慣れているんですね。
「人間がよく潜るところは決まっているので。向こうも覚えているんでしょうね」
――あ、気持ちいいのがきた、って。
「そうそう」
うまくいくカットというのは一発でうまくいく
――心がけていることはありますか?
「同じ写真でも、作り方……、技法ですよね、19世紀中頃に発明された絶滅しそうな技法を使って表現するということをずっとやっていますね。材料がなくなったり規制が厳しくなったりして、デジタル的な手法しか使えなくなったら、動画に走るのかなと思っています」
――定期的に個展を開催する、という活動を今後もなさっていくのでしょうか?
「紙に薬品を塗るところから始めるので、結構失敗もするんです。出来ている作品を発表するだけならできるんですが、作品を揃えるのに時間がかかるので、個展は二年に一回が限界ですね。
去年(12月に)やった時も、去年の今頃、1月にギャラリーを予約したんですね。20点展示したんですが、1月の時点では10点しかできていなかったんです。残りの作品を作るのに1年くらいかかって、ギリギリセーフでした。作る上でネガフィルムを作らなければいけないんですが、それを作るための大きなフィルムがなくなってしまったりして。
おもしろいことに、うまくいくカットというのは一発でうまくいくんです。何回かやり直しても、うまくいく。うまくいかないのは、何度やっても駄目なんです。何度やり直しても変なシミがでちゃったり」
――なんなんでしょうね。写真側からの主張なんでしょうか。ボクは飾って欲しいなとか、ボクは飾って欲しくない、この角度はちょっと、とか。
「そうかもしれませんね(笑)」
――ネット上でも作品を発表していきたいですか?
「ネット上でも発表しますけど、やはり直接観てほしいです」
――写真集の出版には興味ありますか?
「そういうのもあってもいいけれど、やっぱり展示の場で、プリントした生の作品を観てほしいです」
――ではまた次の写真展目指して?
「グループ展はやると思いますが、今年は撮りに行くことをしたいと思います」
――楽しみですね。海外に行かれますか?
「行ったことのないところに行きたいなとは考えています。まだどこということは決めてはいませんが。
あと、これは密かに考えていることなんですが、僕はワインが好きなので、フランスに行ってワインを作っている人たちを撮りたいです」
――それはおもしろそうですね。展示する会場にワインも置いておいたりして。ワインのお店とコラボをしてもいいですよね。
「すごくやってみたいことのひとつです」
写真が好きな人とのつながりを通して世界が広がった
――やっていてよかったことはありますか?
「芸術的なことは楽しいです。普段の仕事で使っている脳とは違う部分を使うので。また活動をしていると、仕事とは違う分野の人たちと出会えます。写真が好きな人とのつながりを通して世界が広がって行ったことが良かったことですね。ミュージシャンと出会って、自分の作品展で演奏してもらったり」
――去年の個展でも演奏があったんですよね。
「はい。ヴァイオリンとピアノのデュオが2組、ベースとギターとアルトサックスのグループ1組に演奏してもらいました」
――写真家(カメラマン)を目指す人へのアドバイスはありますか?
「僕は自分の好きなことをしているだけなので、お金にしようとは思っていないんです。なればいいですけど。でも最初から“お金にしよう”から入ってしまうと、売れるものを考えることになってしまって、好きなことができなくなるでしょうね。お金目的ではなくて好きなことをやるか、好きなことはできなくてもお金にしたいか、どちらかになるんじゃないかと思います」
(2014年1月26日)
写真をやっている方にとっても、興味深いお話になったのではないかと思います。
これからもレンズを通しての塚原さんの世界観、楽しみにしてます!^^