アフリカのジンバブエの楽器、ムビラの普及活動、販売、講師として活躍なさっている、くまさんにお話を伺いました。
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ムビラ
アフリカ・ジンバブエに住むショナ族古来の民族楽器。
祭礼や儀式の時に先祖の霊やスピリット(精霊)との交信をするために演奏されてきた神聖な役割を持つ楽器で、オルゴールの原型となった楽器である。
Contents
旅という移動の中で自分の中を旅している
――仕事を始めたきっかけについて。
くまさん(以下、K):24歳の時に初めて一人でインドに行ったんですが、
「これだ!」
と、時間をかけて旅をすることがすごく勉強になることを直感して、20代はずっと旅をしようと思いました。といっても観光の旅ではなくて、自問自答するという自身の精神的な旅です。
自分が知っている自分というのは本当にわずかでしかなくて、旅を通してどんどん自分、自分の強さ、弱さを発見していくんです。なんというか、旅という移動の中で自分の中を旅しているんですよ。
そういう意味で私は当時、写真をやっていました。
私がインドを旅していた時にインドに撮影で来ていたカメラマンが「フィガロ」のエジプトに在住している日本人の土屋さんという方で、彼と話をしながら、写真っておもしろいなと思いました。そして、その後、プロになろうと思ってはいませんでしたが、自分の精神を磨くためにカメラを持って旅をしていました。
写真って精神世界じみた部分をもっています。どんどん自分の中に入っていくんです。
旅自体は8年に渡っていて、94年、95年にインドを中心にパキスタン、ネパール、タイ、カンボジア、ベトナム、ラオスを周り、95年末に日本に帰ってきて働いて、97年にロスから入り、メキシコ、中米、南米と旅をして、お金がなくなったのでニューヨークに行き9カ月くらい就労しました。そして、その後、99年末にヨーロッパ経由でアフリカに入りました。
――すごい、たくましいですね。
K:20代の頃はエネルギーが満ち溢れてましたね。自分のエネルギーを発散させることで快感を得てました。
そして、インドを旅したときにトランスミュージックを知りました。
今ではトランス状態になるというのが忘れ去られていますが、現代人にとって大切なことだというのがわかったんです。
でもインドの音楽はケミカル・トランスでした。つまりドラッグを使うんです。私はやりませんでしたが。とても現代的だなと思いました。
アフリカのトランスミュージックというのは、音楽を聴いて、地酒を飲んでという……、飲まない人もいますが、要するにナチュラル・トランスなんです。
ムビラの儀式では音楽を演奏する人がいて、聴く人がいて、霊媒師がいるんです。ただ演奏力や霊媒師の能力が問われます。ある時はすごく危うくなる場合もありますが、ある時はすごく開かれる場合もあります。
昔は日本にもそういうものがあったと思うんです。今は科学が発展しすぎて――それも必要だとは思いますが――、もっと自然の力を信じる、日本人だったら山とか川とか、そういうものから何かを感じ取っていたと思うんです。宗教的なものに入り込むのというのではなくて。
アフリカっていうのは、天とも常につながっているし、足も地についている
――アフリカのジンバブエでムビラを知ったんですね。
K:そうです。私がジンバブエのムビラという楽器に出会ったとき、まだ日本では全然知られていなくて、日本で売られているんだろうかと思って、帰国したときに探してみました。楽器屋さんにはなかったんですが、アフリカ雑貨のお店に置いてあったんです。でも全くチューニングも合っていない、ジンバブエで安くお土産屋さんで売られているようなものでした。
これじゃ絶対楽器として見られないし、これからも日本で使われることはないだろうと思ったんです。
でも私はジンバブエですごい演奏家に出会っていたので――、今はもう亡くなってしまったんですが、エファット ムジュルという方がいて、ジンバブエのムビラ音楽を世界に広めた人なんです。世界中いろいろまわって、ライブをして。ムジュルさんをご存知ですか?
――いえ。
K:ムジュル家と言えば有名で、「The Soul of Mbira」(Music and Traditions of the Shona People of Zimbabwe)というシカゴ大学のPaul F. Berlinerという人が書いた学術書があって、たぶんムビラについて詳しく書かれているのは世界中探してもその本だけなんですが、その中にもその一族は出てきます。
アフリカっていうのはパッと見ではわからないんですが、中に入って一緒に生活をしていくと、常に直結しているんです。天とも常につながっているし、足も地についている。私が彼らを尊敬するところはそこなんですが、単に天と地の間に人が立っているだけなんですよ。初めは簡単すぎて逆に気が付かないのですが……。
The Soul of Mbira: Music and Traditions of the Shona People of Zimbabwe
The Soul of Mbira
Music and Traditions of the Shona People of Zimbabwe
24色の音で描かれる音楽にじっと耳を研ぎ澄ます姿勢、心が大切
――私もジンバブエの人が観客に聴かせるというわけではなくムビラを弾いている映像を観たときに、映像だけでも「あ、この音は上とつながっている」って感じたことがあります。草や木や空気や土と同じような存在として音があって、それが自然に、全てのもの、上ともつながっている。
ムビラの音がきれいだからと、商業的に使おうとするミュージシャンに罪はないと思いますが、ムビラって基本はこれなんだなって思いました。
K:そうですね。都会に出てきた人は伝統的な儀式を忘れがちで、ライブとかカフェで演奏する音楽としてのムビラを楽しんでいます。そこで演奏する奏者は彼らの役割を担っていると思いますが、うちの師匠に言わせると、それは伝統的じゃないといいます。伝統的なムビラの演奏とは、同じチューニングを半音ずらして、音と音の間に音を入れる、というものなんです。ただショーとしての演奏だと、24音だけじゃ地味になってしまうので、いろいろな楽器と一緒に演奏するわけです。
でも24色の音で描かれる音楽にじっと耳を研ぎ澄ます姿勢、心が大切なんです。
演奏者もですが、聴く方にもそういう心が求められる、とてもピュアなものなんです。それがないと本当の音は聴こえてこないんです。そんなことを師匠は言いたいのではないでしょうか。
ムビラを通していろいろなことが伝えられてきましたが、いろいろな曲があって、それぞれに意味があります。たとえば、嫉妬の曲が多いんですが、その理由は嫉妬から起こる問題が多いからです。そして、それは嫉妬をあおるのではなくて、諭す曲なんです。
その他、日本のようにダムや水道の整備が進んでいないために農作物のための雨乞いの曲もあるし、「ネマムササ」という曲はゆりかごから墓場までという、ライフサークルの曲だったりします。
あと、年配の方の演奏はみんなそうなんですが、深みがあります。作るムビラもチューニングのバランスがとれています。熟練した方が作ったムビラは素晴らしいですよ。
うちのサイトではムビラの販売もしていますが、初心者から熟練者まで楽しめるいろいろな種類のムビラを取り扱っています。
そのなかでもキーが固いものは、打楽器に近いです。弾くというより叩くという感じですかね。実はそっちのほうがムビラらしい音が鳴るんですけど……
――力がないと無理ですね。
K:そういう意味でジンバブエでは男性が中心となって演奏されてきた楽器ですが、私は日本は日本独自の進化をしていったらいいんじゃないかなと思うんです。日本には軟らかいキーのムビラも主流だし、弾いているのも女性が多いから、女性が中心になっても面白いんじゃないかと。
――女性だけのグループが出来たり?
K:そう、それもアリですよね。
ムビラの音は日本人好みだと思ったし、人種が、日本人とショナ族は近い
――数ある国の中でも特にジンバブエ、ムビラというのは、なにか決め手があったんですか?
K:私は旅をするとき、観光というより、そこに住んでいる人に興味があるんです。
ムビラの音は日本人好みだと思ったし、人種が、日本人と(ジンバブエに住む)ショナ族は近いと思ったんです。
私の活動趣旨として、アフリカと日本をもっと近づけたいというのがあったので。
日本人とショナ族の類似……、言葉でも例えば動物の“象”は“ゾウ”なんです。名前でもタナカ、ヤマシタ、セカイ、それは名字じゃなくて名前なんですが、あとムビラの「ニャマムサンゴ」という曲があるんですが“サンゴ”は森という意味なんです。日本語の“珊瑚”は海の森じゃないですか。といった感じで、探せばその他にもいっぱいあります。
――不思議ですね。性格も日本人に近いんですか?
K:近いですね。気を遣ったり、遠慮したりとか。
――先祖崇拝、多神教などは日本人と似ているって読んだことがあります。
K:そうですね、自然崇拝も。
――ムビラという楽器は、ムビラの方から人に近づいてくるのだと思いますか? それとも人がムビラに近づいていくのだと思いますか?
K:ムビラの方から近づいてくるんだと思います。
日本の場合ですが、ムビラを演奏する大体の人は音楽畑ではなく、いろいろなジャンルからの出身者が多いですね。ある時、なぜか、気が付いたらムビラを弾き続けていたというのはよく聞く話ですよ。
つまり、ムビラをやる人って音楽をやる人じゃなかった場合が多いんですよ。でもいつの間にか音に惹かれていってしまう。そんな魅惑的な音ですね。
ムビラは自分の心とか自分がどういう状態であるのかというのを知るためのアイテム
――教えるときに、心がけていることはありますか?
K:趣味として軽い気持ちでやりたい人もいるし、もっとディープな世界に入っていく人もいるので、自分のペースでゆっくり学んでいけばいいと言っています。自分も師匠からずっとそう言われてきました。
それと、これは一番伝えなくちゃいけないことなんですが、ムビラは楽譜を見て、それを習って、できるようになったらいいというものじゃないんです。自分が奏でるムビラの音は自分のバイオリズムであり、心の鏡なんです。つまり、ムビラは、自分の心とか自分がどういう状態であるのかというのを知るためのアイテムなんです。
だから、私はあまり積極的に楽譜に頼った教え方はしてきませんでした。
――失敗談はありますか?
K:(ジンバブエで)一度、身体を動かし過ぎて倒れたことがありました。
日本だと物を運ぶにも自家用車などがあって人力で運ばなくても済むけれど、向こうでは私は車を持っていないので自身の力で運ぶしかありません。
例えばムビラを郵送する場合、10台を一箱に梱包したらその一箱ずつを郵便局まで頭の上に載せて歩いて自分で運ぶんです。ムビラの買い付けもインフレで大変な量になったお金を運んで行って、受け取って、大量のムビラを背負って帰ってくる。インフレのひどい時はムビラより札束の重さのほうが重い時がありましたよ。田舎のほうではムビラを作る金属も不足しているので、山奥まで背負って持っていくこともあります。
――その疲労で倒れたんですか?
K:そうですね。その時に体験したことがない痛みが胸の奥の方でして病院に行きました。
そして、医者に「疲労だ」と言われました。過労で倒れるなんて日本人らしいですよね。
だから、それ以来、無理しないように心がけています。あと、食事は大切なので、毎回、味噌1キロと醤油1リットルは日本から持っていくようにしています。
味噌と醤油があれば、精神的に落ち着くので。そして、味噌汁などを自分で作ってます。
――味噌汁はジンバブエの人にも飲んでもらっていますか? おいしいって言います?
K:醤油はいいみたいですが、味噌はダメですね。
くまさんの師匠、シンボッティさん
自分の本当のこころに出会うということは一生をかける大事なこと
――今後の抱負について。
K:実家が瀬戸内の愛媛なんですが、今後は島でゲストハウス的なものが作れたらいいなと思っています。そこから文化発信できるような村を作りたいんです。島は過疎化が進んでいるので、高齢者も多いし、そういう人たちの助けができ、また、ムビラの演奏をするだけじゃなくて、いろいろな人たちが集まれるような場所作りがしたいです。
――同じような道を志している方へのアドバイスはありますか?
K:私もそうですが、ムビラを広めようとしたときに周りに無理だと言われたんです。
新しいことを始めるときには、自分を信じる力を磨かないといけないと思います。
自分が持っている感覚をどれくらい信じられるか、信じられれば必ずそのことは叶うと思います。自分の人生だし、自分を信じていけるような生き方をしていければ幸せではないでしょうか?
――それはきっと確信なんでしょうね。誰に何を言われても、自分はこれを信じているんだっていう。
K:ただ、一人で生きてきたわけでも生きているわけでもないので、今、自分がどこにいるのか、現実を見極めていくことも必要です。みんなにわかってもらうためには理想だけを唱えていてもダメだと思うんです。
たとえば、私は子供の頃から直感的にお金が汚いもののような気がして、お金の存在自体がダメでした。でも、今はそういうものとの距離の取り方、バランスのとり方を考えながらやっています。
――精神、心のバランスが大切なんですね。
K:そうです。ムビラに関しても、ただ、練習して演奏すればいいのではなく、ちゃんと心が入っている演奏というのは人の心に届くものだと私は信じています。
また、それを通して、自分の本当のこころに出会うということは一生をかける大事なことだとも思います。
技術力だけではなく、真心を持った人間がもっと増えていけば世界はどんどん良くなっていくのではないでしょうか。
そんなことを教えてくれたアフリカの人たちを私は心の底から尊敬し、常に感謝をしながら、これからも活動を続けていこうと思っています。
(2011年1月17日)
アフリカ、ジンバブエ、ムビラ、そして、くまさんの魅力が伝わるインタビューになったと思います。
興味を持たれた方は、ムビラの音を聴くだけでも、またはライブに行ったり、ワークショップに参加してみてはいかがでしょうか。
それは素晴らしいムビラとの出会いになり、ピュアな気持ちで音と触れ合うことで、本当の自分の心を知ることになるかもしれません^^
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