part6の続きです。
就職したのはデザイン事務所向けの月刊誌を発行している小さな出版社でした。
個性豊かな面々が揃っていましたが、みんないい人たちでした。
「本当に楽しそうに仕事してるね! この仕事が好きなんだね!」
と社長から言われたことがありました。
どうしてそんなに楽しそうに見えたのか――
もちろん仕事ですから、自分なりに誠実にこなしていたつもりでしたが、
私は沈んだ気持ちのままでした。
目標を失ったことは大きかったし、また、実はその仕事に向いていなかったのか、
アレルギーが出てしまい、医者に行っても漢方薬を飲んでも治りませんでした。
自分なりに気分転換をはかったりもしましたが、効果はありませんでした。
この調子でやっていくしかないのかな。
軸を失った私の現在も未来も色を失ったままでした。
そして、
正社員生活を始めてから数ヶ月、その瞬間は訪れました。
部屋の掃除をしていたら、漫画の原作として書きかけた原稿が出てきました。
その存在も、内容もすっかり忘れていました。
なので、とっても客観的に原稿に目を通しました。
漫画の原作というより、小説でした。
「おもしろい……」
わくわくして読み進めました。
ところが、「これからどうなるの!?」というところまでで、原稿は終わっていました。
興奮しました。
「これ、このまま終わりにしちゃダメだよ! 最後まで書き上げなくちゃ!」
その後のストーリーが湧き上がる泉のように頭にどんどん浮かびました。
アシスタント時代に書き始めた時は、“書き上げるのは無理”と思っていたのですが、
この時、私は、書ける!と思いました。
「私、また創作活動が出来る! 私が出来る創作手段は漫画だけじゃなかったんだ! 文章なら書ける!」
一度は創作手段を失った私、再び創作する手段に出会うことが出来ました。
幸せすぎて飛び上がるほど嬉しかったです。
「神様、ありがとうございます! やった~! また創れる! 私はまた出来る!」
無宗教ですが、思わず神様に感謝しました。
それからは勤めながら帰宅後は執筆活動をしました。
周りの風景は再び、色を取り戻しました。
文章では言葉にならない想いを表現することは出来ない、と思っていたのは間違いでした。
文章だって、描かれていないその場の空気感まで読み手に伝えることが出来るんだと気づきました。
原稿用紙で300枚強の小説、
書き終えて、会社の同じ課の先輩に読んでもらいました。
「おもしろくて一晩で読んじゃった」
と言ってもらえました。
モノカキになりたい! 創作活動していきたい!
私は夢を取り戻しました。
私に創作の道をまた与えてくれた、その懐かしの小説の冒頭です。
箱入り娘のお嬢様が、親が仕組んだ政略結婚に気付き家出して、様々な経験をして成長する物語。
「お見合いですって!?」
あたしは持ち上げたティーカップをガチャンと大きな音をたてて、ソーサーに置いた。というより、落とした、という方が近い。
「そんなに目をむくことはないだろう、美咲」
あたしの反応にびっくりして、パパが言う。
「これが目をむかずにはいられますか!」
「そんなに興奮することないでしょ、美咲ちゃん」
あたしの形相にびっくりして、ママが言う。
「これが興奮せずにいられますか!」
事が起きたのは、春の陽射しが優しい昼下がり。あたしが高校を卒業して、ちょうど一か月目のティータイム。
私は再び夢に向かって歩み始めました。
つづく。